化粧品研究者が予想する2021年の化粧品業界トレンドは?

皆様、新年あけましておめでとうございます。化粧品研究者のなつなつ@研究職です。本年も皆様の役に立つ美容科学情報を発信していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!
2022年最初のBeauty Science Newsでは、年初らしく2021年の化粧品業界のトレンドを予想していきたいと思います。
化粧品業界では本当に様々な研究が行われていますが、その中でもこれから業界全体として盛り上がっていくであろう化粧品研究のトレンドを化粧品研究者の視点から紹介したいと思います。
ぜひ今年はこれから紹介するテーマに注目して、各化粧品メーカーのニュースリリースなどをチェックして頂ければと思います。
2021年トレンドの化粧品研究
早速ですが、2021年にトレンドになりそうな化粧品研究テーマを以下にいくつか挙げてみました。
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コロナ禍に対応したメイク製品
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AIやデジタル技術の活用
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メンズコスメ・メンズメイク
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シリコーン・紫外線吸収剤フリー
個人的にはこの辺のテーマが2021年の化粧品メーカーの研究トレンドになると予想しています。最後のテーマは特に今年だからというわけではないのですが、これからますます研究が活発になっていくことが予想されます。
今回は一つ一つについて研究事例を挙げながら簡単に紹介していきたいと思います。
コロナ禍に対応したメイク製品

コロナの影響でマスクの着用が当たり前になったことで、マスクの着用を想定したメイクがますます重要になってくると考えられます。これに合わせて今年はマスクを着用しても崩れないまたは色移りしないようなメイクの研究が更に進むのではないかと思います。
例えばコーセーは昨年、マスクに付着しにくいファンデーションや口紅の技術について以下のようにリリースを出しています。
マスクをしていても長時間化粧が崩れないファンデーション技術を開発~第 69 回高分子学会年次大会 パブリシティ賞受賞技術を応用~
色移りなく美しい仕上がりを長時間キープ マスク常用時代に適応した高化粧持ち口紅を開発
マスク内の環境というのは高湿度で皮脂の分泌も多く、メイク崩れやマスクへのメイク移りが非常に起こりやすいです。このようなマスク内の環境に耐えながらメイクを維持し、マスクの線維に移らないようなメイク技術を確立していくことが重要になります。
このような研究において重要になるのは、メイクの皮膜形成に用いられるポリマー(高分子)の工夫です。例えば先ほどのコーセーのファンデーションの例では、油溶性ポリウレタンゲルと呼ばれる水分を取り込むことでより強固な皮膜を形成するポリマーを用いることで、マスクへのメイク移りを抑制しています。
このように各社独自の高分子化学の知見を活かして、マスクを着用していても崩れにくい・色移りしにくいメイクの開発がより活発化するでしょう。
AIやデジタル技術の活用

AIやデジタル技術の活用は、化粧品業界で今最もホットな研究領域と言っても良いかもしれません。特に2021年は大手メーカーを中心に更にITテクノロジーを活用した化粧品研究が進んでいくでしょう。これらの技術が活用できるのは、主にカウンセリングやパーソナライズ化粧品の領域になります。
AIが得意とするのは大量のデータ(ビッグデータ)の計算処理とパターン認識です。AIは人間が見つけ出せないようなデータの法則性を膨大な計算量によって見つけ出し、これを元に新しいデータに対しても高精度な予測を可能とします。
例えば肌質を例に取って活用方法を考えていきましょう。肌質を正確に診断するためには、通常たくさんの皮膚計測が必要です。しかしこのようなたくさんの計測を店頭のカウンセリングで行うことは不可能です。では、例えばスマホの写真のみで肌質が正確に分かるようにできれば非常に素晴らしいカウンセリングシステムになると思いませんか?このようなことがAIを活用すれば可能になります。

大手化粧品メーカーはこれまでのカウンセリングを通して大規模な顧客の肌画像データと肌質のデータセットを保有しています。これらの大量のデータをAIに覚えさせることで、肌の画像データと肌質を結びつける計算式を導くことができます。
この計算式によって構成される学習モデルを用いれば、スマホで撮影した肌の画像を送信するだけで肌質を95%以上の高精度で判定できるようなシステムが出来上がります。このような「未知のデータに対する高精度の予測」を可能にするのが現代のAI技術なのです。
実際の研究例をいくつか紹介します。例えばポーラは、カメラで撮影した肌表面の画像と光音響法と呼ばれる手法で撮影した肌内部の画像を深層学習によって学習させることで、肌表面の見た目と肌内部の関係性を明らかにする取り組みを発表しています。
この2つの関係性を学習したモデルを特殊な手法で解釈することで、見た目の変化に関係する肌内部の変化がダイレクトに予測できるようになっています。
肌をありのままとらえ、解析する「ダブルアライブ計測」DX(デジタルトランスフォーメーション)で実現する次世代の皮膚科学
また花王は、顔の皮脂から採取したRNAと呼ばれる核酸のデータをAIによって学習させることで肌のエイジングサインを予測するカウンセリング技術を発表しています。肌の画像がRNAに変わっただけで、基本的な考え方は同じですね。
このように大量の情報をAIを使って解析し皮膚の状態を予測するという研究が今後の化粧品研究の主流になっていくのはほぼ間違いありません。2021年は化粧品研究におけるAIやデジタル技術の活用に特に注目してみて下さい。
メンズコスメ・メンズメイク

個人的にこれからますます活発になると思うのがメンズコスメやメンズメイクです。美容意識の高い男性は年々増加傾向にあり、これから更に注目を集める領域になると思います。
また最近はメンズスキンケアブランドであるBULK HOMMEの活躍や資生堂のメンズ用BBクリームの人気もあり、新しいターゲット領域として研究も進んでいる印象です。例えば資生堂は以下のような男女による肌質の違いに関する研究発表を昨年リリースしています。
上記の研究によると男性の肌は女性よりも紫外線ダメージを受けやすく、皮膚バリア機能も低下していることが報告されています。また男性の肌は抗酸化力も低く、女性と比較して肌のストレス耐性が低いことが分かりつつあります。男性にも女性と同様のスキンケアが必要であることを示唆する結果だと思います。
またこちらの研究では、男性ホルモンによって皮膚免疫に関与するランゲルハンス細胞の機能が低下することも報告されています。このような研究を通して、いよいよ皮膚科学の領域でも性別差に対する研究が本格的に始まってきている印象があります。
今までの化粧品研究の多くはあまり性別差を考慮せずに進んできていましたが、これからはこのような研究結果を活用してまずは男性の肌質に特化したスキンケアという意味でのパーソナライズ化が加速しそうです。
シリコーン・紫外線吸収剤フリー

こちらは特に2021年だからというわけではありませんが、昨年に引き続きシリコーンや紫外線吸収剤フリーに向けた研究が進んでいくと考えられます。
シリコーンフリーと少し大きく書きましたが、欧州での規制を受けて特に環状シリコーンの代替となる素材の開発が更に進むと考えられます。
環状シリコーンは日焼け止めなどに非常に一般的に用いられる化粧品成分であり、今現在も汎用的に使用されている成分です。しかしEUで以下の環状シリコーンが配合量や使用形態の規制を受けることが数年前に発表され、状況が変わってきました。
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シクロテトラシロキサン(D4)
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シクロペンタシロキサン(D5)
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シクロヘキサシロキサン(D6)
これらの成分は水生生態系へ影響を与える可能性があるかも?ということで、欧州化学品規則によって特に洗い流すタイプの製品(リンスオフ製品)における配合制限が設けられました。現時点ではリンスオフ製品のみの規制にはなりますが、化粧品における使用制限もEUでは検討されています(参考資料)。
日本の化粧品においては現在直接的な規制は出ていませんが、このような観点から環状シリコーンについては非常に事業的リスクの高い化粧品成分と認識されています。日本でも突然EUのように規制される可能性もありますし、規制されると製品を回収する必要が出てきたり製品処方の変更も追い付かなくなってしまうので、前もってこれらの代わりになるような素材を探索する必要があるのです。
多くの化粧品研究者がこの点に頭を悩ませていると思いますが、環状シリコーンの代替となる素材の探索や環状シリコーンを使わずとも同様の性能が発揮できるような製品の開発は急務であり、今年は更に研究が加速すると思います。
シリコーンと同様ですが、紫外線吸収剤も今後ますます厳しい規制の対象になっていくと考えられます。紫外線吸収剤については特にアメリカ食品医薬品局(FDA)が良く思っておらず、アメリカでの規制がどんどん厳しくなってきています。
例えばFDAは昨年、日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤が皮膚から体内に吸収され血液中から検出されたという中々衝撃的な論文を発表しています。
こちらの論文の真偽や解釈は非常に長くなるのでひとまず置いておいて、このような懸念が議論されているというのが現状です。
更にFDAは『安全に使用できる日焼け止め成分』として酸化亜鉛と酸化チタンの2つのみを挙げています(参考資料)。これらはいずれも紫外線散乱剤であり、FDAが紫外線散乱剤を推しているのがよくわかると思います。
このような状況から日焼け止めについてもいずれ紫外線吸収剤が規制されていくのではないかという懸念は年々高まっています。
日本における化粧品関連の規制は欧米に準ずることが多いため、海外での規制を機に日本でも規制が厳格化する可能性は十分あります。こういった観点からも、今後の紫外線防御製品における紫外線散乱剤の使いこなしが重要になります。
紫外線散乱剤のみで幅広い太陽光波長をカットするのは現在の技術では中々難しいのですが、この辺にアプローチするような研究が今後ぽつぽつ出てくるのでは?と個人的には思っています。
まとめ・編集後記
2021年の化粧品業界の研究トレンドについて私なりの予想をさせて頂きました。皆さんのトレンド予想と重なる部分はあったでしょうか?
この他にも近年意識が高まっているSDGs視点やマイクロプラスチックなど挙げればきりがないのですが、これらのテーマは各化粧品メーカーが今後注力していく領域になると思います。ぜひ今年はこれらのポイントに注目して各化粧品メーカーの動向をチェックしてみて下さい。
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今週も読んで頂きありがとうございました。そして本年もどうぞよろしくお願いします。それでは、また来週お会いしましょう!
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