現役研究員が解説!国内大手化粧品メーカーの最新研究トレンド

資生堂、敏感肌と皮膚常在菌の関係を明らかに。花王、日々のスキンケア行為が皮膚へ与える影響を確認。ポーラ、コロナ禍における肌状態の変化をビッグデータにより解析。マスク着用による肌トラブルの原因と対策を研究者視点で解説。
なつなつ(化粧品・皮膚科学の研究者) 2020.10.05
誰でも

Beauty Science Newsでは科学的根拠に基づいた美容情報を毎週発信しています。

記念すべき第一回目の記事は、現役の大手化粧品メーカー研究員である筆者が解説する「国内大手化粧品メーカーの最新研究トレンド」です。

皆さんもご存知のように、資生堂や花王・ポーラ・コーセーといった日本の化粧品メーカーでは、日々より良い化粧品を開発するために様々な研究が行われています。しかし一般の皆さんにとって、化粧品メーカーで行われている難解な研究内容を理解するのは簡単なことではありません。

本ニュースレターでは、現役の化粧品研究者である筆者が「美容科学についてもっと詳しく知りたいけど内容が難しくて分からない」という美容意識の高い皆さんに向けて、美容に関する最新の研究情報科学的根拠に基づいた美容法を分かりやすく解説しています。

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それでは早速内容の解説に入っていきましょう。

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敏感肌のカギを握る「皮膚常在菌の多様性」を発見(資生堂)

 photo from pixabay
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2020年8月19日、(株)資生堂は皮膚常在菌の多様性敏感肌と関連している可能性を発表した。「マイクロバイオーム」という手法を用いて敏感肌群、非敏感肌群の被験者の皮膚常在菌を網羅的に比較解析したところ、以下のことが明らかとなった(一部抜粋)。

  • 敏感肌群では皮膚常在菌の多様性が低かった(種類が少ない)

  • 敏感肌群では表皮アクネ菌に対する表皮ブドウ球菌の割合が低かった

これらの結果から、敏感肌においては皮膚常在菌の多様性が低く、中でも表皮ブドウ球菌の少なさが皮膚の状態のカギを握っている可能性が明らかとなった。

この研究結果から、表皮ブドウ球菌を向上させることで敏感肌の改善が期待できる。

同社はサッカロミセス抽出エキスに表皮ブドウ球菌の試験管内での増殖作用、並びにヒトに使用した際のキメの改善を確認した。

参考HP:資生堂、敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことを発見
出典:(株)資生堂 ニュースリリースより

筆者コメント

何とも資生堂らしいハイレベルな研究リリースが出されました。リリース内容について簡単に解説・コメントしたいと思います。

今回皮膚状態のカギを握る可能性が示唆された表皮ブドウ球菌は、皮膚常在菌の中でも最も一般的と言われる菌の一種です。表皮ブドウ球菌は皮脂などに多く含まれる『トリグリセリド』を分解することで、グリセリン脂肪酸などの成分を皮膚上で発生させます。グリセリンや脂肪酸はそれぞれ、皮膚の保湿や、皮膚への悪影響が知られている黄色ブドウ球菌の殺菌などに関与します。

  • グリセリン:保湿因子

  • 脂肪酸:黄色ブドウ球菌の殺菌、抗菌ペプチドの産生

このことからも表皮ブドウ球菌が敏感肌の改善に寄与している可能性は高いと考えられます。

これまで皮膚常在菌と皮膚状態の関連性は様々な報告がなされていますが、信頼性の高いデータは多くありませんでした。これはマイクロバイオームという皮膚常在菌の解析手法の難易度が非常に高く、安定したデータを取得するのが難しい為です。

研究者である私の観点から見ても、マイクロバイオームは難しすぎて取り組みたいと思わない研究領域です。こういった研究領域にチャレンジできる資生堂は、やはり世界でもトップレベルの化粧品メーカーと言えるでしょう。

今回資生堂が発表した一連のデータは、

  • 敏感肌群において表皮ブドウ球菌が少ないこと

  • ヒトにおける試験で表皮ブドウ球菌の増殖に伴ってキメの改善がみられること

を確認していることから、比較的信頼性の高いデータであると考えられます。皮膚常在菌に関する多くのデータはin vitro(試験管内)での結果に留まりますが、ヒトでの確かな検証結果によって仮説の信頼性は高まったと言えるでしょう。

また表皮ブドウ球菌を増殖させる成分としてサッカロミセス抽出液が見出されました。この研究結果が得られたことから、今後敏感肌の方向けにサッカロミセス抽出液を配合した化粧品が販売されそうですね。

このように「成分の添加によって皮膚常在菌を操作し肌を良い方向へ変化させること」プレバイオティクスと呼びます。プレバイオティクスの技術は、今後化粧品業界の技術トレンドになっていくと予想されるので覚えておくと良いでしょう。

***

毎日のスキンケア習慣が皮膚状態に影響を与える可能性を確認(花王)

photo from photoAC
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2020年9月14日、花王(株)は毎日のスキンケア習慣が皮膚の状態に影響を与える可能性を確認したと発表した。同社は被験者の指に指輪型の速度センサーを装着してスキンケア動作を解析し、スキンケア時の手の動きと心拍数の変化や皮膚状態の変化の関連性を研究した。その結果、以下のことが明らかとなった(一部抜粋)。

  • ゆっくりと手を動かす被験者やハンドプレスを行う被験者は、よりリラックスした状態になっていた

  • スキンケア行為を楽しんでいる被験者は、スキンケア行為を義務的に行っている被験者と比較して、ゆっくりとした手の動きの割合が多かった

  • スキンケア行為を楽しんでいる被験者は、スキンケア行為を義務的に行っている被験者と比較して、よりリラックスした状態になっていた  

以上の結果から、スキンケア時の手の動きリラックス度が関係している可能性が確認された。同社は今後、日々の化粧品の塗布動作によって化粧品の効果を最大限に引き出す提案を行っていく予定である。

筆者コメント

今回の発表では、スキンケアの方法リラックス度の関連性が明らかになりました。花王はかつてより「スキンケア行為と皮膚状態・感情」の関連性を研究しており、今回の発表も興味深いものです。スキンケア時はゆっくりと手を動かすハンドプレスを行う、などによってよりリラックスした状態を誘引できると考えられます。

ハンドプレスやリラックス状態が皮膚に良い影響を与えることは同社が過去に報告しています。例えば以下のようなものです。

  • 通常のスキンケア後にハンドプレスを行うことで肌の質感が明確に向上する

  • スキンケア時の快感情が高い被験者は肌のつや、透明感が向上する

参考HP:顔肌への継続的な触覚刺激が快感情を喚起、肌の質感が向上
出典:花王(株)ニュースリリースより
参考HP:快感情が肌の質感向上に影響を与えるスキンケアの効果を確認
出典:花王(株)ニュースリリースより

このように化粧品そのものだけでなく、スキンケア行為スキンケア時の感情皮膚の状態と密接に関係していることが明らかとなっています。

このような変化をもたらす要因の一つとして考えられるのがオキシトシンです。オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、ストレスの低減や睡眠の質改善などに寄与していることが知られています。

花王はかつてよりオキシトシンと肌の関連性を研究しており、唾液中のオキシトシン量と肌の質感が関連することも報告しています。

参考HP:唾液中のオキシトシン* 量と肌の質感との関連性を確認
出典:花王(株)ニュースリリースより

まだ確定的なことは明らかとなっていませんが、スキンケア時のリラックス状態や快感情がオキシトシンの分泌を促し、皮膚に良い影響を与えている可能性が考えられます。日々のスキンケアを少し時間を掛けてゆっくりと楽しみながら行うことで、皮膚の状態もより良くなる可能性が高いでしょう。

***

コロナ禍における肌状態の変化をビッグデータから確認(ポーラ)

 photo from photoAC
 photo from photoAC

2020年8月17日、ポーラはコロナ禍における生活様式の変化が、ニキビシミなどの肌状態に変化を及ぼしている調査結果を発表した。ポーラのパーソナライズブランドAPEXユーザーから取得した約14万件の肌分析データから、昨年と今年の7月の肌状態を比較した。その結果、以下のことが明らかとなった。

  • 昨年7月と比較して、今年7月はニキビができにくい人の割合が少なかった

  • 昨年7月と比較して、今年7月はシミができにくい人の割合が多かった

同社は梅雨明けが遅れたことによる日照時間の低下に加え、コロナ禍の環境変化が肌に大きな変化をもたらした可能性を指摘した。

参考HP:マスク着用によるニキビの悪化と、ステイホームや日照時間の減少によるシミリスクの減少(約14万件の肌データから昨年と今年の肌変化を分析)
出典:ポーラ・オルビスHDニュースリリースより

筆者コメント

ポーラが保有する約14万件ものビッグデータ解析により、コロナ禍における皮膚の変化が鮮明になりました。このような調査研究は、多数の顧客を有しデータを蓄積している大手メーカーならではの視点です。

今回の調査によって、今年2020年の夏は昨年と比較してニキビができやすくシミができにくい人が多かったと考えられます。

日照時間の低下はもちろんですが、コロナ禍におけるマスクの長期着用により紫外線の防御効果が高まり、シミの発生が低減したと考えられます。この結果から、紫外線対策がシミ予防に重要であることが改めて確認できますね。

一方でマスクの着用によるニキビの増加も確認されています。コロナ禍によるマスクの長期着用によってニキビが増加することは、香港の研究グループも同様の発表を行っています(参考文献)。このことから、マスクの長期着用によるニキビの増加はほぼ間違いない現象と言えるでしょう。

マスク内の環境は外界とは異なり、ニキビが発生しやすい環境になっています。上記の論文によるとマスク着用によるニキビ増加の原因として、

  • 皮膚温度の上昇によって皮脂の分泌量が増加したこと

  • 温度の上昇によって表皮細胞が膨張し、これが毛穴をふさぐことでコメド(ニキビのもと)の発生が促進されたこと

が挙げられています。

皮膚温が1℃上昇すると、皮脂の分泌量は約10%増加します。皮脂中に含まれるスクアレンが酸化されるとニキビの原因となることは古くから知られており、当然皮脂が増えれば酸化するスクアレンの量も増えます。皮脂の分泌量を減らすことはニキビ対策において非常に重要です。

また湿度の上昇によって角質細胞が膨張、結果として毛穴が塞がり、ニキビができやすい状態になっていることも指摘されています。角質細胞の主な構成成分は「ケラチン」と呼ばれるタンパク質ですが、このケラチンは水と結合することで大きく膨らみます。筆者らはこの膨潤によって毛穴が塞がれ、コメドの形成、ニキビの発症を促進したと推定しています。

以上のことから推察すると、マスク着用時においても皮脂の分泌を抑え高湿度状態を避けることが出来ればニキビの予防が達成できると考えられます。これを解決する手法として「マスク着用時もしっかりとメイクすること」をオススメします。

マスクをしているからといってすっぴんで出掛けるのではなく、カバー力や皮脂吸収性の高い化粧下地やファンデーションをしっかり付けておくと、ニキビの発生が抑えられる可能性があります。男性向けのBBクリームなども近年多数発売されていますので、男性もこういったアイテムで皮膚をしっかりカバーすると良いでしょう。

メイクは身だしなみの為だけでなく、皮膚を外界から安定的に保護する役割も果たしています。コロナ禍の状況でもメイクをしっかりと行うことで、肌の状態を安定に保つことが期待できるでしょう。

***

執筆後記

以上本記事では、国内化粧品メーカーの研究トレンド解説をお届けしました。

各社ともに非常に幅広い研究に取り組んでおり、このような研究から我々の身近な化粧品が開発されていることが皆さんにもお分かり頂けたのではないかと思います。

本ニュースレターでは今後も科学的根拠に基づいた様々な美容情報を毎週発信していきますので、内容について気になった方はぜひ購読登録をお願いいたします。

それではまた来週の配信をお楽しみに!

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