意外と知らない「皮脂の美容効果」について化粧品研究者が徹底解説!

皆さんは皮脂についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?なんとなく「肌に悪い」「しっかり落とす必要がある」と感じている方が多いのではないかと思います。
このようにスキンケアの悪者になりがちな皮脂ですが、実は肌にとっての良い側面も多数持ち合わせています。皮脂の美容効果を正しく理解することは、美容のレベルアップにおいて極めて重要です。
そこで本記事では美しい肌を導くために重要な皮脂の美容効果について、現役の化粧品研究者である私なつなつ(X @natsunatsu_7722)が徹底解説します。
-
皮膚科学における皮脂の役割とは?
-
皮脂にはどんな成分が含まれている?
-
皮脂をコントロールするスキンケア方法とは?
主に上記の内容について分かりやすく解説します。
ネットやSNSには、皮脂に関する間違った美容知識が多く存在します。本記事を読んで頂ければ皮脂に対する正しい知識が身に付きますので、ぜひ参考にしてみてください。なお本記事は3ヶ月ぶりの一般配信・公開記事となっております。
また本ニュースレターでは、メディアの運営をご支援いただけるサポートメンバーを随時募集しています。サポートメンバーの方にはニュースレターが毎週配信されます。それ以外のメンバーの方には3ヶ月に1回の配信となります。
毎週配信されるニュースレターを見逃さないようにするためにも、ぜひサポートメンバーにご登録頂けますと嬉しく思います。
上記の登録ボタンからメールアドレスで簡単に登録できますので、ぜひこの機会にご検討ください。それでは早速解説を始めていきましょう。
皮膚における皮脂の役割
この記事を読んでいる方の中には、「皮脂は肌に悪いからしっかり取り除く必要がある」と考えている方が多いのではないかと思います。SNSやネットの記事を読んでいても、このような意見は非常に多いですよね。
この考え方は一部では正しいと言えますが、実は見方を変えると間違っていると言うこともできます。今回はスキンケアの悪者にされがちな皮脂の奥深さについて、詳しく解説していきたいと思います。
そもそも皮脂はどのようにして分泌されているのでしょうか?まずは基本的な皮膚科学の知識からしっかりと理解していきましょう。
皮脂は毛穴に付属する皮脂腺という器官から分泌されています。皮脂腺は真皮層に存在しており、皮脂腺の内部で作られた皮脂が毛穴を通して肌の表面に分泌されています。

引用:Doctor’s Organic 皮脂腺・皮脂・表皮脂質・皮表膜
皮脂と非常に間違いやすいのが汗です。皮脂と汗は全くの別物ですので、しっかりと区別して理解することが重要です。
汗は皮脂腺ではなく汗腺と呼ばれる器官から分泌されます。汗腺には毛穴に付随しているアポクリン汗腺と、皮膚全体に存在しているエクリン汗腺の2種類があります。汗は必ずしも毛穴から分泌されるわけではなく、皮膚全体からも分泌されています。
また皮脂と汗では分泌される成分も大きく異なります。以下のように覚えておくと良いでしょう。
-
皮脂:主に油性成分が分泌される
-
汗:主に水性成分やミネラルが分泌される
さてこのような特徴を持つ皮脂ですが、実は皮脂は皮膚において非常に重要な役割を担っています。それが皮脂膜の形成です。
皆さんもご存知のように、肌上では絶えず皮脂や汗が分泌されています。これらの皮脂と汗が混ざり合って肌上で乳化すると、皮脂膜と呼ばれる肌の防御膜が形成されます。

引用:MOLTOLICE 特集記事:保湿対策「皮脂膜」について
この皮脂膜は肌を健康的に保つために非常に重要な役割を担っています。具体的には以下のような皮膚科学的機能を有することが明らかとなっています。
-
肌の保湿
-
肌のバリア機能向上
-
抗菌効果
-
肌のpHのコントロール
皮脂膜はいわば天然の保湿乳液でもあり、肌が本来持つ重要な機能の一つです。
皮脂膜の形成によって肌内部の水分が保持されると共に、外部のアレルゲンの侵入が防御されます。また皮脂に含まれる成分によって抗菌作用が発揮され、更に肌のpHをターンオーバーに適した弱酸性に保つ働きがあります。
このように皮脂膜は理想的な肌の状態を維持するために極めて重要な役割を担っています。皮脂の美容効果の源泉は、まさにこの皮脂膜の形成にあるのです。
アトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚疾患においては、皮脂膜が上手く形成されないことが知られています。これは言い換えると、皮脂膜が存在しなければ私たちの肌はボロボロになってしまうということでもあります。
私たちが普段特にスキンケアをしなくても健康な肌を維持できているのは、皮脂膜のおかげであると言っても過言ではありません。
このように皮脂は皮膚の表面で汗と混ざり合って皮脂膜を形成し、皮膚を強力に保護してくれています。私たちの肌は、知らず知らずのうちに皮脂膜によって守れらているのです。
皮脂に含まれる成分と特徴
皮脂について更に理解を深めるために、次に皮脂に含まれる成分について解説していきます。皮脂は以下に示す成分から構成されていることが知られています(参考文献)。
-
トリグリセリド:約35%
-
ワックスエステル:約25%
-
スクアレン:約15%
-
遊離脂肪酸:約13%
-
コレステロール類:約7%
-
その他:約5%
上記に示したそれぞれの成分が、肌にとって重要な役割を担っています。しかし一方でこれらの成分の中には、肌にとって悪影響を及ぼす成分も存在しています。これが皮脂が悪者とされる理由の一つでもあります。
皮脂について理解を深めるために最も重要なポイントは、皮脂に含まれるそれぞれの成分が肌にどのように作用しているのかを、良い面・悪い面を切り分けて理解することです。
そこで以降では、上記で示した皮脂に含まれる成分の役割や作用について、詳しく解説していきたいと思います。
トリグリセリド
皮脂に含まれる最も主要な成分がトリグリセリドです。一般には中性脂肪とも呼ばれます。
トリグリセリドはグリセリンと3分子の脂肪酸がエステル結合で結合した化合物です。皮脂中には30〜50%程度含まれることが多く、以下のような化学構造を形成しています。

photo from Natsu
トリグリセリドの脂肪酸の部分には、様々な種類の脂肪酸が結合することが知られています。中でも存在量が多いのは以下の3つの脂肪酸であると言われています。
-
パルミチン酸
-
パルミトレイン酸
-
オレイン酸
なおグリセリンに脂肪酸が1つもしくは2つだけ結合した成分も皮脂中に存在しており、これらはそれぞれモノグリセリド・ジグリセリドと呼ばれます。ただしモノグリセリドやジグリセリドの存在割合はそれほど多くありません。
トリグリセリドは皮脂膜を形成する主要な成分であり、高い保湿効果を有しています。つまり皮脂に含まれるトリグリセリドは皮膚に必要な成分であると言えます。
一方でトリグリセリドは皮膚に存在するリパーゼという酵素によって、グリセリンと脂肪酸に分解されます。トリグリセリドが分解されて生じた脂肪酸のことを、特に遊離脂肪酸と呼びます。
後ほど解説しますが、この遊離脂肪酸の中には皮膚に悪影響を与える成分が存在します。つまりトリグリセリドは肌に必要ですが、その分解物は肌にダメージを与える場合があるということです。
このポイントは重要ですので、しっかり覚えておきましょう。
ワックスエステル
ワックスエステルは、個人差はありますがトリグリセリドに次いで皮脂に多く含まれることの多い成分です。一般には蝋(ロウ)とも呼ばれます。皮脂中には20〜30%前後含まれています。
ワックスエステルは長鎖アルコールと脂肪酸がエステル結合で結合した成分です。トリグリセリドとは異なり、アルコールと脂肪酸が1対1で結合しています。

photo from Natsu
このワックスエステルも、トリグリセリドと同様に肌の保湿効果があります。刺激性も少なく非常に優秀な保湿成分です。
ワックスエステルもトリグリセリドと同じく肌にとって必要な成分であると言えるでしょう。
スクアレン
続いてはスクアレンです。皮脂中には10〜20%程度含まれています。スクアレンは以下のような化学構造を取っており、分子内に多数の二重結合を有しています。

photo from Natsu
スクアレンのように分子内に二重結合を有する油性成分は、酸化が起こりやすいことが知られています。これは二重結合部位に存在する水素原子が引き抜かれやすく、空気中の酸素と反応しやすくなっているためです。
特にスクアレンは皮脂中に含まれる成分の中でも二重結合の数が非常に多く、最も酸化が起こりやすい皮脂成分であると言えます。そして酸化されたスクアレンは、皮膚へのダメージ性を有することがよく知られています。

photo from Natsu
スクアレン自体のダメージ性は低いと考えられていますが、スクアレンの酸化物は皮膚に大きなダメージを与えます。つまりスクアレンは、皮膚にダメージを与えるポテンシャルを有する成分であると言えるでしょう。
ではスクアレンの酸化を引き起こす原因は何なのでしょうか?様々な原因が考えられていますが、最も主要な原因は紫外線であることが知られています。
スクアレンは地表に豊富に降り注ぐUVAによっても容易に酸化反応が進行することが明らかとなっています(参考文献)。UVAはガラスを通り抜けて屋内にも到達しますので、屋内にいても皮脂中のスクアレンが酸化する可能性は十分に考えられます。
このようにしてスクアレンの酸化が起こってしまうと、少量でも皮膚にダメージが生じる可能性があります。スクアレンの酸化には要注意と言えるでしょう。
ちなみにスクアレンとよく似た成分にスクワランがあります。スクワランの化学構造は以下のようになっており、スクアレンとは異なり二重結合が一つも存在しません。

photo from Natsu
このように二重結合が存在しないスクワランは、通常の環境下では基本的に酸化は起こりません。スクワランは保湿効果の高い安定した成分であり、化粧品にも配合されています。
皮脂中に含まれるスクアレンと保湿成分のスクワランを間違えないように注意しましょう。
遊離脂肪酸
続いては遊離脂肪酸です。こちらも個人差はありますが、皮脂中に10〜20%程度含まれています。
先ほども解説しましたが、遊離脂肪酸はトリグリセリドがリパーゼによって分解されて生成する脂肪酸成分です。遊離脂肪酸には炭素数や不飽和結合の数によって様々な種類があります。
代表的な脂肪酸について、以下に示します。

引用:ニュートリー株式会社 キーワードでわかる臨床栄養
中でも皮脂中に豊富に含まれている遊離脂肪酸は、パルミチン酸・パルミトレイン酸・オレイン酸の3種類であることが知られています(参考)。これらの3成分で皮脂中の遊離脂肪酸の60%を占めています。
これらの脂肪酸のうち不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸とオレイン酸は、過剰に存在すると表皮の炎症を引き起こすことが知られています(参考論文)。そして表皮の炎症が起こった結果、毛穴目立ちに繋がることが資生堂の研究により報告されています(参考)。
一方でこれらの不飽和脂肪酸には抗菌作用や角層の柔化作用があることも知られています。不飽和脂肪酸は皮膚に対して良い影響と悪い影響がそれぞれ報告されており、一概に良い・悪いと結論づけるのが難しい成分です。
詳細な作用については未だ不明な点も多いですが、少なすぎても多すぎても肌への悪影響が大きく、適度なバランスが重要な成分であると考えられます。
その他の成分
これまでに紹介した成分の他に、コレステロールエステルなどのコレステロール成分が皮脂中の成分として知られています。これらの成分は量も少なく、基本的に皮膚への刺激性や影響は大きくありません。
皮脂に含まれる主要成分としては、トリグリセリド・ワックスエステル・スクアレン・遊離脂肪酸の4つを覚えておくと良いでしょう。
そしてここまでの解説から、それぞれの成分がどのような観点で皮膚に良い影響・悪い影響を与えているのかが、皆さんにもよくお分かり頂けたのではないかと思います。
皮脂成分は化粧品にも配合されている
以上、皮脂に含まれる成分について詳しく解説しました。皮脂にはダメージ性のある成分も含まれていますが、一方で保湿効果を有するなど肌にとって良い成分も含まれています。
つまり皮脂に含まれる成分は全てが悪者ではないのです。これは皮脂の美容効果を理解する上で極めて重要なポイントですので、本記事を読んでいる皆さんにはぜひ覚えておいて欲しいと思います。
そしてこのポイントについて更に理解を深めるために、化粧品を例に取って解説したいと思います。実は皮脂中に含まれる成分と同じ成分が、化粧品にも配合されることが多々あります。
代表的なのが以下の2つの成分です。
-
トリグリセリド
-
ワックスエステル
先ほども解説しましたが、これら2つの成分は高い保湿効果を有しており、化粧品にもよく配合されています。
例えば乳液や美容液によく配合されるオリーブオイルやシア脂などの植物油脂は、皮脂にも多く含まれるトリグリセリドが主成分です。これらの植物油脂にはエモリエント作用があり、肌の保湿性を高めてくれます。
また一般に天然由来のトリグリセリド成分は、二重結合を有する脂肪酸を含んでいます。基本的には安全に使用できる成分ですが、二重結合を有する遊離脂肪酸はダメージ性の懸念もあるため注意が必要です。
そこで化粧品によく配合されるのが、化学的に合成されたトリグリセリド成分であるトリエチルヘキサノインです。トリエチルヘキサノインは、脂肪酸部分が二重結合を持たない飽和脂肪酸のみで形成されているのが特徴です。

引用:Cosmetic info トリエチルヘキサノイン
トリエチルヘキサノインは酸化安定性が高く、植物油脂よりも安全に使用できるエモリエント成分として多くの化粧品に配合されています。
また化粧品によく配合されるホホバ油の主成分も、皮脂に多く含まれるワックスエステルです。ホホバ油は高いエモリエント性と滑らかな感触を有しており、油性基材として乳液や美容液・クリームなど多くの化粧品に配合されています。
このように皮脂に含まれるトリグリセリドやワックスエステルは、実は乳液やクリームなど私たちが普段使用している化粧品にも一般的に配合されているのです。
私たちは毎日洗顔によって皮脂の汚れを落としたのち、乳液やクリームでスキンケアを行っています。しかし乳液やクリームの中に含まれている油性成分は、実は皮脂の成分と同じなのです。
つまり皮脂を取り除いて新しい皮脂を追加していると言っても良いかもしれません。このように考えると、必ずしも皮脂が悪者であるとは言い切れないのが、皆さんにもよくお分かり頂けるのではないかと思います。
皮脂と上手く付き合うスキンケア
このように皮脂は肌にとって良い側面、悪い側面の両方を持ち合わせています。
もちろん肌に悪影響を与える可能性のあるスクアレンなどの成分は、取り除くことが好ましいと言えるでしょう。しかしトリグリセリドやワックスエステルなど、肌に良い影響を与える成分も皮脂中には多く存在しています。
最も理想的なのは、皮脂の中でも肌に良い成分は残して悪い成分は洗い流すという選択的な洗顔を行うことです。しかしこのような洗顔を行うのは現在の化粧品科学では極めて難しいと言えるでしょう。
そこで基本的には余分な皮脂は取り除いた上で、不足する皮脂の成分を外から補うことが重要と言えます。このために利用できるのが化粧品なのです。
乳液やクリームの基本的な考え方は、洗顔で失われた肌表面の皮脂膜を復元することにあります。そのため乳液やクリームには、トリグリセリドやワックスエステルなど皮脂と同じ成分が配合されているのです。
このポイントをぜひしっかりと理解しておきましょう。
またスクアレンの項で解説したように、酸化した皮脂は肌に大きなダメージを与えます。紫外線対策を行なって皮脂の酸化を防ぐことは、肌をダメージから守るために極めて重要です。
また過剰な皮脂はアゼライン酸などを用いて抑制することも重要です(参考)。いくら皮脂には肌に良い成分が含まれるからと言っても、油分の量が増え過ぎると毛穴を閉塞してしまいニキビや肌荒れの原因になってしまいます。
過剰な皮脂は肌への悪影響の方が大きくなってしまうため、適切に洗い流したり抑制することが重要です。
私はよく脂性肌には乳液やクリームは不要な場合が多いと主張していますが、これは過剰に分泌される皮脂の成分によって肌の保湿が既に完成している場合が多いためです。
皮脂が多い肌に乳液やクリームで更に皮脂の成分を足してしまうと、油分過多となり肌の状態は悪化してしまいます。この点は脂性肌の皮脂コントロールにおいて極めて重要なポイントですので、ぜひ覚えておきましょう。
一方で乾燥肌や敏感肌の方は、皮脂を洗い過ぎないことも重要です。特に乾燥肌の方は、もともと皮脂の量が少ない傾向にあります。このような肌質の方が「皮脂は肌に悪いから」と言って皮脂を洗い過ぎてしまうと、皮脂膜が形成されなくなり肌は更に乾燥していきます。
皮脂を落としすぎないスキンケアを心がけると共に、足りない皮脂成分を化粧品によって補う意識を高く持つことが重要です。
このように自分の肌質をよく観察しながら、皮脂量のバランスを化粧品で上手に調節することが、皮脂と上手く付き合うために重要なスキンケア方法です。ぜひ本記事の内容を参考にして、皆さんも皮脂との上手な付き合い方を考えてみてくださいね。
まとめと編集後記
今回は美容において重要なテーマの一つである皮脂について解説しました。
皮脂は何かとスキンケアの悪者にされがちですが、実は皮脂に含まれる成分の中には肌にとって良い効果を与えるものが多数存在しています。
皮脂の本質的な役割を理解することで、皆さんの日々のスキンケアはよりレベルアップすることでしょう。そして皮脂の役割を正しく理解した上で、不足する皮脂の成分を化粧品で補うという考え方を持つことが重要です。
ぜひ本記事を参考にして、皆さんも皮脂への理解を深めてみてください。
今週も読んで頂きありがとうございました。そして来週からはサポートメンバーの限定記事が続きます。サポートメンバーにご登録頂くと、以下のようなメリットがあります。
-
エビデンスに基づいた美容情報が毎週届く
-
150本以上の美容科学記事がWeb上で読み放題
-
スレッド機能でなつなつに美容科学の質問ができる
サポートメンバーにご登録頂くと、過去の配信記事も含めた全ての限定記事をWeb上で読むことが出来ます。また課金期間は「登録日」から1カ月間となります。
様々なメリットが得られますので、ぜひこの機会にご登録頂ければと思います。
次回の一般公開記事の配信は12月です。それではまた来週、お会いしましょう!
研究者が美容科学を易しく解説
・最先端の美容情報をお届け
・過去の記事も読み放題
・毎週届き、いつでも配信停止可
・読みやすいレターデザイン